About Injection Tuning

インジェクションチューニングって何をするの?

インジェクションチューニングの必要性

ライダーひとりひとりに最適なオートバイを作るために

マフラーやエアクリーナー等交換しても実はそれなりに走行出来てしまうのがインジェクション車ならではの特徴です。
従来のキャブレター車なら、走行が難しくなりますが、インジェクション車は、吸排気のバランスが崩れても、あくまでもノーマルのプログラムでコンピューターが指示を出すため、基本的にガソリンが非常に薄い燃焼状態になって走行してしまいます。
※薄い燃焼状態は、ガソリンの燃焼スピードが上がるため、スムーズにエンジンが回るように感じることもあり、マフラー・エアークリーナーを交換をして「パワーが上がった」「トルクが出た」と勘違いしてしまい、インジェクションチューニングはしなくても良いと思ってしまいがちです。

ただし放っておくとこのような症状が出てしまいます!!

エンジンがオーバーヒートしやすくなり、エンジン内部の消耗を早めてしまう原因になる。
最悪の場合はピストンやシリンダーに傷を付け、焼付くことになる。
ガソリンが足りないため、エンジンにトルクが無くなり低速や坂道でスカスカした走りになる。
アクセルを開けている時はあまり問題ないが、アクセルを戻した時や減速・エンジンブレーキ中にマフラーからパパパーンとか、ボッボッと大きな音が出てしまう。(過剰なアフター・バックファイヤー)
吸排気のバランスが崩れているため、燃費が悪くなることがある。

そこで!インジェクションチューニングを行うことにより、交換したエアクリーナー・マフラー・カム等に合わせて、燃料噴射や点火タイミング等のノーマルプログラムを適正に書き換え、エンジンがベストな状態で走行出来るように導くことが必要となるのです。

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吸入空気量

まずは、吸入空気量の測定と調整から始まります。オートバイのエアークリーナーやマフラー、カムシャフト等をノーマルから変更すると、エンジンのシリンダー内の空気の吸入量が増減します。この変化する吸入空気量(=1シリンダー約150ポイント)に対し、ハーレーの場合はフロントとリアの2シリンダーなので300以上のデータをシャーシダイナモ上でサンプリングして、ノーマルのベースプログラムでデジタル化されている数字を足したり引いたりして、適正な数字にしていきます。

適正な吸入空気量になるよう数字に変更を加えていく

上の図は、実際の吸入空気量を表したグラフです。
吸入空気量は、アクセルの開度、エンジンの回転数、エンジンの負荷で変化していきます。
例えば、アクセル開度30%(全開100%とする)の場合、エンジン回転数2000rpm、2250rpm、2500rpmの吸入空気量は回転数によって違います。また、その逆もあり、同じエンジン回転数2000rpmでもギアが1速であればアクセル開度40%、5速であれば5%、6速であれば2%とアクセル開度が変化すると同時に吸入空気量は変化していきます。
まずはこのグラフの数字をフロントシリンダー・リアシリンダーへ、適正な数字に変更して入力していくのです。

シャーシダイナモを使用した場合と実走の場合での測定結果の違い

グラフの縦軸と横軸の吸入空気量を測定するには、実走でデータを測定する事も可能ですが、実走データには限界があります。例にとると、15%以上のアクセル開度のデータを実走で採取するとなると、速度もかなり出ているのでリスクを伴います。
それがましてや、お客様の大切なオートバイと考えると、中々アクセルを開ける事が出来ない為、採取するデータが曖昧な数字になってしまいます。当店も上記の経験から実走は最終確認の為の試走にとどめ、データ採取は安全に行えるシャーシダイナモという測定器の上で実施しておりますので、ベースプログラムに的確なデータを入力する事が出来ます。この吸入空気量の測定作業が非常に大切であり、この測定データがズレていると後の作業のデータが全てズレてくるので、フロント、リア、シリンダー共に測定データに間違いがないか何回か確認して次の作業に進んでいきます。(この吸入空気量(VE)の測定方法は、またの機会で)

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吸入空気量

空燃比(AFR)とは

エンジンは燃料であるガソリンと酸素を混合し爆発させ、その爆発の勢いで車輌が動きます。このときのガソリンと空気の混合比率を「空燃比」といいます。前作業のシリンダー内の吸入空気量が正確に測定が出来ていれば、こちらの指定する空燃比で走らせることが可能になるのです。

厳しい基準で空燃比を調整

空燃比を表したグラフには、12.5~14.6まで色々な数字が並んでいます。この数字が空燃比です。数字が少なくなるとガソリンは濃くなり、大きくなるとガソリンは薄くなります。
このプログラムテーブルで空燃比を入力していきます。従って、前作業で測定した吸入空気量のデータが正確でないと、この空燃比テーブルの数字と、実際にハーレーから排出される排気ガスの空燃比にズレが出てきます。
当店では、プログラムした空燃比と排出される排気ガスの誤差を±2%以内と厳しい基準を決めて作業しています。この測定作業はシャーシダイナモでしか測定する事が出来ません。
なぜ「±2%以内」と基準を定めているかというと、オープンループとクローズドループの設定作業でとても重要になるからです。

MAP(kPa)とは?

MAPとは「マニホールドプレッシャー」といい、単位のkPaは「キロパスカル」です。
これは」エンジンの内部に空気を吸い込む力を表しています。

誤差±2%以内の厳しい基準のワケ

±2%以内でなければインジェクションチューニングの意味がない!その理由を解説します。

重要なのがクローズドループとオープンループ

なぜ「±2%以内」と基準を定めているかというと、オープンループとクローズドループの設定作業でとても重要になるからです。
クローズドループとは、2007年から採用されたシステムで、エキゾーストシステムに設けられたO2センサーからの情報をECMに送り、燃料補正を行うシステムのことです。オープンループとは、ECMにプログラムされた通りの燃料を噴射するため、O2センサーによるガソリンが濃い・薄いの燃調補正は行わないシステムのことです。
上記の図の通り、純正のインジェクションシステムは非常に良く考えて出来ており、空燃比テーブルで自己学習しながら走行するクローズドループと、プログラムで指示した空燃比で走行するオープンループを、領域によって使い分けることが出来るシステムを採用しています。

問題は純正O2センサーがナローバンドであること

エキゾーストシステムに付いているO2センサーは、ナローバンドといわれるO2センサーで、正確に測定が出来る空燃比が14.2~14.7(798mv~320mv)と狭い為、全ての回転数、全てのアクセル開度で機能させる事が出来ません。ですが、非常に高い耐久性があり、トラブルが少ないセンサーである事が、純正採用されている理由でもあります。

測定範囲の広いO2センサーに交換した場合はどうか?

O2センサーを測定範囲の広いワイドバンドセンサーに交換すれば、全ての領域で測定可能になりますが、いくつかの問題点があるのです。

◆問題点【1】コストが高い

耐久性が非常に短い為、結構な頻度で交換しなければなりません。ワイドバンドセンサーは高価なため、それではランニングコストがかなりかかってしまいます。

◆問題点【2】二次エアーに対しても補正してしまう

ワイドバンドセンサーを使用してクローズドループ(自己学習)で走行すると、全域で空燃比を補正しながら走行するので、便利な反面、例えばインテークマニホールドからの二次エアー(トラブルによって過剰に空気を吸い込む事)が入ってしまうと、その吸入空気量に対し、燃料を補正してしまうのです。

◆問題点【3】エンジントラブルに気づかない

エアクリーナーが汚れて空気の流れが悪くなってくると、吸入空気量が減りますので、減った吸入空気量に対し、空燃比を補正して走行することになります。ということは、エンジンにトラブルが出ていても気付かないことになり、ワイドバンドセンサーにトラブルが出た場合、補正できなくなる上に、オープンループになるので、オープンループで走行する空燃比の設定が曖昧な数値だと、エンジンにダメージを与えてしまう場合もある為、便利ではありますがトラブルが分かりにくい事もあり、純正では使用することが出来ません。

つまりナローバンドで誤差±2%以内でないと適切な状態で走行ができない!

上記のことを踏まえると、クローズドループの範囲の空燃比はECMに燃料補正してもらえば良いのですが、純正採用のナローバンドを使用して、空燃比の数値が実際に排出される排気ガスの空燃比のズレを±2%以内に収めていないと、O2センサーのトラブルになった時は補正が出来ません。その場合、ECMのプログラムされている数値での燃料噴射(オープンループ)になってしまい、例えば14.5の空燃比指示で実際に排出されるガスの空燃比が3%ズレていたら14.90、4%ズレていたら15.08と、かなり薄い空燃比で走行する事になりますので、オーバーヒートや、最悪の場合、ピストンが焼き付いてしまうことになります。
また、オープンループで走行させている範囲の空燃比は、O2センサーの影響(フィードバック)は全く受けませんので、実際の排気ガスの空燃比がECMから出される指示とのズレがあれば、全くもって空燃比テーブルの意味がなくなってしまいます。
以上の理由から、測定した吸入空気量に対し、空燃比が実測±2%の厳しい基準が必要となるのです。
たかが2%ですが、インジェクションチューニングにおける空燃比の2%は非常に重要です。もし±2%に収まらなければ作業は振り出しに戻り、再び吸入空気量の測定からやり直しです。

大切なハーレーをお預かりするからこそシャーシダイナモで正確な測定を

誤差を±2%以内にすることは、お客様の大切なハーレーを守るために必要な基準とも考えています。だからこそ、当店では測定装置シャーシダイナモでの測定作業をしております。
インジェクションチューニングを実走行で行う店も多く存在しますが、モニターを見ながら走行することは不可能なため、誤差を±2%以内にすることは出来ません。そのためMAPが13.2~13.5等で固定されていることが、実走行でインジェクションチューニングを行うお店ではよく見受けられるのです。

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点火タイミングの調整

点火タイミングのグラフは横軸がエンジン負圧MAP

縦軸が回転数、横軸がエンジン負圧MAP(マニホールドプレッシャー)になっています。点火タイミングはエンジンの負荷にあわせて変更しなければ、ノッキング(異常燃焼)を起こしてしまうためです。

ノッキング(異常燃焼)とは

例えば、アクセル10%、回転数1500rpmで走行するとします。平坦な道と、登りの坂道が同じ点火タイミングとしたら、登りの坂道でノッキングが出やすくなります。それはエンジンに負荷がかかったからです。エンジンに負荷がかかれば当然、点火のタイミングを変える必要があります。これはガソリンのオクタン価にも影響します。
通常ハーレーはハイオクですが、日本とアメリカではオクタン価の規格や測定基準が異なるため多少差が存在します。基本的にハーレーの設計も年々の高出力化に伴い、圧縮圧力も高くなっていますし、当然テストはアメリカのガソリンでされているはずです。実際、全くノーマルのハーレーでも日本のガソリンでノッキングが発生していることがあるのです。
その状態でハイフローエアークリーナー、マフラーなどのカスタム部品で吸入空気量が増え、燃焼が大きく変わるのに点火タイミングがズレていたらエンジンにダメージを与えかねません。せっかくエンジンのためにと思いインジェクションチューニングをしたら、点火タイミングの不適正でオーバーヒート気味になってしまうこともあります。
ハーレー純正のECMはノッキングをセンサーで感知すると、点火時期を変化させてノッキングが発生しないように補正しますが、補正範囲が非常に狭いため、補正も出来ない程の点火タイミングのズレがあったら問題です。低回転ならまだしも、高回転での点火のズレは致命傷に繋がります。

当店設置シャーシダイナモの負荷装置(リターダー) 電子ブレーキシステムです。

負荷装置の付いたシャーシダイナモでの測定は必要不可欠

点火タイミングの調整は、空燃比と同じくモニターを見ながら補正していきます。当店のシャーシダイナモは、点火タイミングのプログラムも正確に調整・補正出来る様に、負荷装置(リターダー)を付けていますので、点火のマップテーブル通りに測定することが可能です。
負荷装置(リターダー)が付いていると、例えばエンジン回転数1500rpm、アクセル開度を5%から10%、15%と開けていった場合、当然エンジンの回転数が上がっていきますが、アクセルを開けていくと同時に、後輪に負荷をかけていく事により、エンジンの回転数が上昇しないように制御することができます。その結果1500rpmの回転数を固定したままアクセル開度を5%~100%と開ける事が出来るため、モニターを見ながら点火テーブルのエンジン負荷(MAP)も適正に補正していくことが出来るのです。当然室内での作業ですから、安全面も配慮されています。
これが実走での測定となると、エンジン回転数1500rpmで、アクセルを開けながらリアブレーキで負荷をかけ、タイヤの回転数を上げないようにアクセルを開けていき、ハンドル周りに取り付けたモニターを見ながら道路状況も把握しながら、的確に判断して走行する必要が出てきます。しかしそれには高い運転技術が必要となります。さらに、高回転になるとスピードがかなり出るため、事故に繋がりかねない高いリスクを抱えているといえます。

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再チェック・アイドリング調整・その他調整

変化した空燃比の再チェック・再調整

点火のプログラムで進角・遅角させた所の空燃比(AFR)の確認作業をします。
当然、燃焼のタイミングを変更した訳ですから、空燃比(AFR)にも変化がありますので、再度±2%以内に収まっているか確認し、ズレていれば吸入空気量の調整と空燃比の調整を繰り返し行い、ECM全体のプログラムのマップの精度を上げて完成に近づけていきます。

アイドリング調整などその他の調整

基本となる吸入空気量、空燃比、点火タイミングが決まれば、ここから他の項目調整になります。代表的な調整項目といえばアイドリングの調整や暖気運転の燃料・アフターファイヤーの調整・電子スロットルの調整などなど…他にもたくさん調整する項目はありますが、ここでの説明は割愛いたします。長くなりますので・・・

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試走

最後に試走してお引き渡し

全ての項目の測定・調整が終われば最後に試走をさせていただき、問題がなければお客様にお渡しになります。また、1台1台インジェクションチューニングをした結果が、数字やグラフで馬力の向上・トルクの向上、空燃比等、明確に目で見て理解出来ると同時に、体感して感じていただけたらうれしい限りです。

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チューニング完成!!

完成例:スポーツスター系


赤線:チューニング前  青線:チューニング後
スポーツスターはノーマルでも低速のアクセルのつきがイマイチですが、マフラーを社外の製品に変更すると、その症状はさらに悪化します。グラフで見ると、馬力・トルク共に下がります。
ここでよく見ていただきたいのがグラフ下の細長い空燃比グラフです。馬力・トルクが下がる領域の空燃比のガソリン量が急激に薄くなっています。これは当然のことで、燃料の噴射はノーマルのマフラーのエンジンの吸入空気量に対し噴射しているからです。排気効率が上がれば、吸入空気量が増えるわけですがら、ガソリンを濃い方向にしなければいけません。
また、全体的に赤線(チューニング前)はガソリン量が薄い状態です。この状態で走行を続けると、一番使用する領域が一番薄いためオーバーヒートしやすい状態です。それをインジェクションチューニングによって空燃比を整えていきます。
インジェクションチューニング後の青線は一定のラインを保って一直線になっています。何故一直線になるのかというと「空燃比(AFR)を13.0で燃料を燃焼させて下さい」と指示しているからです。すなわち、空燃比(AFR)13.0で指示通りの燃焼が出来ていることはインジェクションチューニングで一番大事な吸入空気量がしっかり測定出来ていて、正確な数字が入力されている証拠になります。
これは、吸入空気量が正確に把握出来ているということなのです。話は戻りますが、空燃比テーブルの必要性がここでご理解していただけると思います。この様にインジェクションチューニングの内容を明確に目で見て理解していただくことで、お客様にもよりご安心していただけると思っています。

完成例:カムを交換した車輌


赤線:カム交換前  青線:カム交換後

こちらは以前当店でインジェクションチューニングしてある車輌で、カム交換前に確認のため空燃比13.0で指示通り走行出来るか測定し、その後カムを交換してリセッティングを行い、馬力・トルク共に出力が向上・・・という何てことのないグラフですが、やはりインジェクションチューニングの内容が目で見てはっきり理解出来るので、「次はこうしたい、ああしたい」などエンジンの部品交換のインジェクションチューニングも対応出来ます。また、インジェクションチューニングに限らずエンジンの出力状態が目で見て理解出来るので、故障原因の把握につながります。

よくある質問

Q01
マフラーやエアクリーナーがノーマルならチューニングは必要ないのか?
問題なく走行出来ます。が、ガソリンの噴射量が少ないのでガソリンが薄い状態で燃焼しているため、オーバーヒート気味になっています。
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